データベース(SDBS & NIST)を用いた化学スペクトルの見つけ方・使い方

データベース(SDBS & NIST)を用いた化学スペクトルの見つけ方・使い方

学生実験の参考データに限らず,実践的な研究を考察する際にも「既存の試薬」の化学スペクトルは比較するためにも必要です。

これらの「試薬」の化学スペクトルを調べられるデータベースを紹介します。

大学の学生実験でも多用しますし,研究室配属後にも活用します。ブックマークしましょう!

さて,紹介するデータベースは2つ

SDBS: Spectral Data Base System for Organic compounds

NIST Chemical Webbook: National Institute of Standards and Technology

この二つのデータベースで化学スペクトル情報が得られないものは,論文を読むしかないですね。

検索言語は英語で!

両データベースとも,特に登録することなく無料で使えるデータベースです。

NIST Chemical WebBookは,米国の「アメリカ国立標準技術研究所」が提供しているデータサイトです。「英単語」での検索しかできませんが,SDBSにはない熱力学データなど,SDBSに掲載されていないデータがNISTにはあったりします。その逆もしかりです。両方をうまく使いましょう。

SDBSは,日本の「国立研究開発法人 産業技術総合研究所」が提供しているデータサイトで「日本語」でも検索できますが,「英単語」で検索したほうが見つかりやすいです。

また,検索結果は「英単語」で表記されるので,DeepLやGoogle翻訳使って「英単語」で検索しましょう。

▼ 下記の化合物の検索結果を示します。

日本語検索結果英語名検索結果組成式検索結果
エタノールEthanolC2H6O
酢酸Acetic acidC2H4O2
酢酸エチルEthyl AcetateC4H8O2
アセトアニリドAcetanilideC8H9NO
ニトロアセトアニリドNitroacetanilideC8H8N2O3
ベンジルBenzilC14H10O2
ヒドロベンゾインHydrobenzoinC14H14O2

日本語でも英語でも組成式でも検索結果にあまり影響はありませんが,日本語で検索した一部の化合物がうまく検索でヒットしませんでした。

検索結果の表示スピードも個人的には早いように感じています。

SDBSでの検索方法

下記URLにアクセスします。

https://sdbs.db.aist.go.jp/sdbs/cgi-bin/cre_index.cgi

すべての化合物について化学スペクトルが掲載されているわけではありませんが,下記の化学スペクトルデータが掲載されています。

  • 1H-NMR
  • 13C-NMR
  • MS
  • ESR
  • IR
  • Raman

1.免責事項を確認の上、「免責事項に同意したうえでSDBSを利用する」をクリック

アクセス画面【下部】に「免責事項に同意したうえでSDBSを利用する」のボタンがあるます。

「免責事項に同意」とは,この無償提供されているデータにはもしかしたら間違いがあって,それによって生じるかもしれない損失に対して責任を負いませんよ!ってことです。

また,1日に入手して良い数は「50件以下」という制約があります。

SDBSのデータを引用して各種発表を行う際に引用の仕方も記載があります。

きちんと引用しましょうね。

SDBSWeb : https://sdbs.db.aist.go.jp (National Institute of Advanced Industrial Science and Technology, アクセスした年月)

2.検索したい化合物名(英単語)or組成式を入力して「Search」をクリック

化合物名あるいは分子式を入力します。

「日本語」で検索したい場合は,検索窓の真下にある「小さなチャック」を付ける必要があります。

分子式で入力する場合は,注意が必要です。

ヒドロベンゾイン(HydroBenzoin)の組成式は,”C14H14O2”です。

この”水素(H)”と”酸素(O)”の順番を入れ替えて,”C14O2H14”と入力すると「検索結果はゼロ件」と表示されます。

分子式の入力順は,炭素(C),水素(H),アルファベット順です。

なお,含まれていない元素を、わざわざ「0」を入れる必要はありません。

3.検索結果一覧が表示

3件ヒットしました。

各化学スペクトルに対応した欄に「Y」や「N」の記載があります。

「Y」はデータベース有り,「N」はデータベース無し を示します。

今回検索している「ヒドロベンゾイン(HydroBenzoin)」のIUPAC名は「(+-)-1,2-diphenyl^1,2-ethanediol」です。

分子構造を見たい場合は,「SDBS No」である「19336」をクリックします。

4.SDBS Noをクリックして分子構造を確認

分子構造が表示されます。

左に,先ほど「Y」と表示されていた化学スペクトルの一覧が掲載されています。

NMRやIRでは,測定条件でスペクトルが異なることがあるので,測定条件にも注意して化学スペクトルを見ましょう。

例えば,NMRでは「重水素溶媒の種類」でスペクトルの本数が変わることがあります。>>参考YouTube動画

IRでは,「KBrペレット」なのか「ヌジュール法」なのかで,スペクトルの形状が大きく変わります。>>参考YouTube動画

詳しく知りたい方は,それぞれの動画で学んでください。

5.化学スペクトルのデータをクリックし,データが表示

SDBSで見つからない「有機」化合物は,NISTでも検索してみましょう!

NISTの検索方法

下記URLにアクセス

https//webbook.nist.gov/chemistry/

NISTには,下記の化学スペクトルが掲載されています。

  • IR
  • MS
  • UV-vis
  • GC
  • Vibrational & electronic energy levels; IRやRamanの同定
  • 他,熱力学データなど

実に様々なデータが掲載されています。

1.「Name」か「Formula」をクリック

今回は「Name」をクリックした場合の説明です。

また,同じページの下部にSDBSと同様に「免責事項」の記載があります。

SDBSと同様に,自己責任でお願いしますね。って様なことが記載されています。

2.化合物名を入力,「Search」をクリック

1の窓に化合物名を入れます。

2の「SI単位」と「カロリー単位」については,とりあえず「SI」を選択

3のチャックは何もつけずに進みます。特定のデータだけ見たい場合は,チェックを付けましょう。

3.「化合物」に関連した情報が掲載

入力した化合物に関する情報が掲載されます。

Stereoisomers;立体異性体

Other data available; 化学スペクトル が掲載

4. 化学スペクトルの確認とデータ取得

4-1. UVデータの確認とデータの取得

「Other data available」にある「UV/vis spectrum」をクリックする。

UVデータを見ることができます。

このUVデータを取得して,自分の解析ソフトで表示することもできます。

ページ下部の「Download Spectrum in JCAMP-DX format.」の「spectrum」をクリックするとデータを取得することができます。

4-2. IRデータの確認とデータの取得

「Hydrobenzoin」の入力だけではIRデータは掲載されないようなので,立体異性体を定義してあげましょう。今回は,「mesoーHydrobenzoin」をクリック

立体構造を定義してあげると,IRデータが掲載されていました。

こちらのIRデータも,先ほどのUVデータと同様に,ページ下部の「Download Spectrum in JCAMP-DX format.」の「spectrum」をクリックするとデータを取得することができます。

4-3. IRスペクトルの帰属

SDBSには記載がありませんが,NISTのデータベースにはIRスペクトルの「帰属」が掲載されている場合があります。所望の化合物がなくても,類似化合物で検索すればたいていのピークは帰属できます。

酢酸(Acetic acid)で検索した結果です。

データ一覧の中に,「IR spectrum」の他に「Vibrational and/or electronic energy levels」があります。

「Vibrational and/or electronic energy levels」をクリック

IRスペクトルのそれぞれのピークが「振動モード」が帰属されています。

官能基の横に書かれている記号には,下部のNoteに説明があります。

すべての化合物のIRスペクトルが帰属されているわけではありませんが,基本的な化合物は掲載されているので,帰属の参考になります。

機器分析の授業動画の紹介

これらのデータベースを使い倒すには,それぞれの機器分析の知識が必須となります。

コチラにそれぞれの機器分析の授業動画を公開しています。>> 【機器分析

これらのデータベースの使い方や背景知識は,研究室配属後や就職後にも使い続けるスキルです。学生のうちから慣れておきましょう。

追加情報 と おススメ参考書

NISTについては,他の情報もたくさん掲載されています。色々と触ってみてください。個人的には,各種熱力学データが掲載されているので,こちらの値を参考に試験問題など作成しています。

また,SDBSについては「for Organic Compounds」と記載があるように,有機化合物に関して豊富な化学スペクトルデータが掲載されています。他の無機化合物等のデータについては,産総研が公開している「研究情報公開データベース一覧」をご覧ください

>> 「研究情報公開データベース

また,自学自習や研究室でスペクトル解析の演習をやるなら,以下の2冊が良書です。問題も豊富でありながら,解説がきちんと行われており,体系的に理解することができます。

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